日々彷徨
興味を引かれるものにふらふらと吸い寄せられながらウン十年。 過去と現在に出会った物を記録しようじゃないか。 海外ミステリの話が多くなると思うんだけど予断は許さない。
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極限状況物
「ボーン・マン」の紹介の中で、「極限状況物」という言葉を使った。あまり一般的な用語とも思えないが、普通の社会システムとは異なる環境、ルール、人物に囲まれた状況を舞台とした物語、といった意味で勝手に使っている。

例を挙げるなら監獄、戦時下・内戦下、未開の地、などがあげられる。本格ミステリでよく出てくる外界遮断物、例えば列車や船の中、吹雪で閉じ込められた山荘とかいうのもこのカテゴリといえなくもないが、あくまで一時的なものであり、また密室を構成するための小道具として用いられる場合が多く、あまり緊迫感はない。

日々生きていくこと自体が大変で、そこで人が一人殺されようがどうしようが、そんなの日常でしょ、という状況の中でちまちまと犯人探しをしないといけないというものが極限状況物である。事件の解決など基本的には空しい作業であり、設定も結末も空しいものが多い。むしろその過程の中で極限状況を描きこむことが大きな柱になっている。そういう意味では前述の「ボーン・マン」は一時的極限状況でまだ救いがある。

極限状況物のわたし的極限は、フィリップ・カーのベルリン三部作、すなわち「偽りの街」「砕かれた夜」「ベルリン・レクイエム」だ。第二次世界大戦前後のベルリンが舞台となっており、第一作はヒトラー総統支配下でまさにベルリンオリンピックが開催されているさなかの強盗殺人、第二作はナチス支配が確立しユダヤ弾圧が激しさを増す中での連続殺人、そして第三作は敗戦後、西側諸国とソ連が占領地、そして世界の支配にしのぎを削る中での人狩り。第一作に至っては極限の中の極限、悪名高い収容所も舞台になる。この作家、以後も色々独特な作品を出している。「屍肉」はソビエト連邦崩壊後のマフィアが暗躍するサンクトペテルスブルグが舞台であり、これも結構極限状況である。

もうひとつあげるとしたら、デイヴィッド・リンジーの「狂気の果て」。ヒューストン警察のスチュワート・ヘイドンシリーズであるが、この作品では秘密警察とゲリラが暗躍するグアテマラを舞台にしており、刑事物というよりエスピオナージュ(スパイ物)。ヒューストンの静かな自宅とグアテマラの壮絶な状況が一瞬にして切り替わり、極限状態がいっそう引き立っている。

そして牢獄物。これは結構いろいろなものが出ているが、最近読み返したミッチェル・スミスの「ストーンシティ」は刑務所という全く別世界のようでいて、実社会をいびつに変形させて圧縮した世界を丹念に描いており秀逸である。あまりに精緻に突きつけられる描写はあまり晴れやかな気分にさせてくれるものとは言えず、万人向けではないかもしれないが、極限状況を味わうにはもってこいである。これは近日中に書こうと思う。

同じ牢獄物で環境は同じなのだが、花輪和一の「刑務所の中」はなんとものどか。これも本人の体験によるエッセイ?マンガなので単純には比較できないが、この二冊が同じジャンルというのはかなり無理がある。無法地帯と化し一瞬でも気を抜いたら生きていけない世界に生きる主人公を描く「ストーン・シティ」に対し、高度に管理され看守の言われるまま何も考えることなく菩薩化していく「刑務所の中」。これはこれで極限状況といえなくもないか。映画も山崎努がゆるゆるの熱演を見せていい味出してる。

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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌

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