日々彷徨
興味を引かれるものにふらふらと吸い寄せられながらウン十年。 過去と現在に出会った物を記録しようじゃないか。 海外ミステリの話が多くなると思うんだけど予断は許さない。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
着陸拒否(J・J・ナンス)


オンライン書店ビーケーワン:着陸拒否


着陸拒否

J・J・ナンス
飯島宏(訳)
新潮文庫
PANDORA'S CLOCK
John J. Nance

[bk1で詳細を見る] [amazonで詳細を見る][イーブックオフで詳細を見る]


航空パニック物

飛行機という密室の中に強力な伝染力と致死率を持つウイルスに感染した患者がいたらどうなるのか。しかもそのニュースが飛行機よりも早く世界中をかけ巡り、憶測が憶測を呼んでいく。この状況で当該の飛行機に着陸許可を出す空港は皆無である。本国の政府からも見捨てられるどころか厄介者扱いされ、挙句に抹殺の計画が進み始める。飛行機のクルーと乗客は世界中を敵に回して孤立無援の状況で生き残る道を模索する。

飛行機は文字通り密室である。ミステリに密室はつき物であるが、飛行機の場合犯人はおろか、空気の出入りすらままならない。つまりひとたび空気感染性のあるウイルス患者がいた場合、乗客乗員全員が感染の危機にさらされる。巨大なウイルスの培養容器と化した飛行機は乗り合わせた人にとっても、いつ空から降りてくるかわからないのを見上げる人にとってもまさに悪夢である。このあたりのヒステリックな対応が物語の異常な状況を真実味を失うことなく作り上げることに成功している。

飛行機業界物というジャンルはT・ブロックの「超音速漂流」があまりにも有名で、これでもかというサスペンス、すなわち乗客に対する危機の連続と業界専門知識満載で、あっという間にこの作品を頂点とする航空パニック物というピラミッドを世間に知らしめることになった。本作品もこのピラミッドの正統を継ぐものであり、いくつかのシチュエーションにおいては「超音速漂流」とモチーフを同じにする。昔懐かしい航空パニック物映画でよく見る光景として、「超音速漂流」でもそうであったが、正規のパイロットが操縦不能状態となりまったくの素人、あるいは「軽飛行機のライセンスが役に立つとは思いませんが」レベルの乗客が巨大機をいきなり操縦してしまう、というものがあるが、本作では一貫して機長が飛行機を操り、物語の軸の一極を担っている。

この機長、出だしではなんとも頼りないというか情けない。健康診断の結果でおろおろし、嫌味な副機長のあら捜しにいらいらしている。定石通り死んでしまうか逃げ出してしまって誰かがヒーロー(往々にあることだが、あるいはヒロイン)になるんだろうと思ったくらい。このやれやれ機長も各国の思惑に翻弄され、ついには自分で道を切り開かないとこのまま海の藻屑と消えると開き直ってから俄然冒険小説としてのテンションがあがる。おじさんの成長物語ということが。当然そこには恋というファクタもあるのだが。

T・ブロックの精緻かつ遠慮の無い冷徹な記述と比較すると描写はソフトであり、多少全体のトーンは甘くなっているが、冒険活劇としてとても読みやすい。飛行機の外では様々な思惑と陰謀が渦巻いて、というあたりは抜かりが無く、あまりにもエピソードを詰め込みすぎるということも無く、軸を絞ってじっくり丁寧に、しかしスピード感を持って描写されており、違和感の無いストーリ展開となっている。追い回され、虐げられた機長が反撃に転じるという対決の構図も物語を盛り上げている。映画化に向いていると思うのだが。ただ、機長にスポットが当たっている分、直接の恐怖にさらされているはずの乗客がおざなりにされており、物語にもあまり絡んでこないのが少し残念である。この状況で如何に乗客を制御するか、あるいは制御に失敗して如何に状況が悪化するか、といったあたりがもう少し大きな要素として描かれていれば飛行機に持ち込む本として一層価値あるものとなるのだが。

昔から飛行機は落ちるから怖い、乗らない、という人は結構多かった。技術の進歩とともに落ちる危険性は減ったのかもしれないが、一方でテロ、ハイジャック、整備不良、スタッフの資質等気にしなければならないことは増えるばかりである。そしてウイルス。近年のSARS騒動を挙げるまでも無く、すでに現在の状況はこの物語がいつ起こっても不思議が無いものといえよう。

[bk1で詳細を見る] [amazonで詳細を見る][イーブックオフで詳細を見る]



スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://euglena.blog23.fc2.com/tb.php/13-f5f67a02
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。